マダオ社長シリーズ(?)
年を越した。
指輪の出番も持ち越した。
夜遅くまで仕事をする姿をみて、
とりあえず今年中には、と思う。
1月も数週間過ぎて、
寒さも厳しくなってきた。
ただ、この屋敷は歴史がある分、ボイラーも古く、
ここのところ調子が悪い。
瀬人の部屋も広い分、暖まるのが遅く、
風呂から出たらとっとと布団にもぐりこみたくなるような、
そんな気温であった。
瀬人が風呂から出ると、布団は整えられており、
遊戯が上着を持って待っていた。
「瀬人さま、もうおやすみになられますか?」
「ああ。」
遊戯も早く休みたいだろうと思うと、
後で起きるにしても、とりあえず寝るフリだけはしようと思った。
こんな風に気を使うのは後にも先にも遊戯だけである。
「お前も早く休め。風邪を引かれると変わりが居ないからな。」
「はい。」
瀬人はそのままベッドへ向かい、布団をかぶる。
遊戯は、おやすみなさいませ、と深々と頭を下げてから、
周りの冷気は入り込まないよう天蓋をおろしていった。
部屋の電気が消えて、ドアが閉まり、廊下を行く足音が小さくなったのを確認してから、
瀬人はのそのそと起き上がって、机の電気を手探りでつけた。
12時に寝るのは早いらしい。
遊戯がソファにおいていった上着を羽織って本格的に仕事へ取り掛かる。
この仕事を終えておけば、今度の週末は休みが取れる。
そうすれば遊戯と落ち着いて話す時間も取れるだろうと思ったのだ。
そして相変わらずの集中力を発揮し、気づけば2時になっていた。
後少しやればきりが良いのだが、
流石に冷えてきて、温かいものでも飲もうと厨房へ向かった。
廊下はすっかり電気が消され、みな眠っているのだろう。
遊戯もクマのぬいぐるみなんかを抱きながら寝ているに違いない。
前に偶然開いていたドアの隙間から、遊戯の部屋を垣間見たときに、
クマのぬいぐるみが布団をかけて寝ていたのだ。
「(遊戯はアレが気に入っているのだろうか。)」
ぬいぐるみといっても、両手に収まる程度のもので、
金額的にもあまり高くはないだろうが、それでも大切にしているところが彼女らしい。
あのクマが、某テーマパーク系列のものであることは知っているし、
上手く立ち回れば、そのテーマパークへ2人で出かけることも出来るのではないか?
なんだか楽しくなってきた。
すっかり上機嫌で、食堂までへたどり着いたとき、
厨房がうっすら明るい。
「こんな時間に・・?」
勝手口が近いことを考えると、もしもの事態もありえる。
瀬人は足音を立てないよう、そっと壁沿いをつたって、
厨房を覗いた。
「遊戯・・・!」
急に声をかけられて、人影は飛び跳ねた。
「せ、瀬人さま・・!?」
手にはマグカップが握られており、何かを飲んでいたようだ。
ただ、彼女はまだメイド服のままでいた。
「こんな時間に何をしているんだ。」
「あ、あの・・・体が冷えてしまったので、温かいものをと思って・・・
瀬人様もですか?布団が寒かったのでしょうか・・?」
「(しまった・・)そうではない。考え事をしていたら眼が冴えてしまっただけだ。」
「何かおいれしましょうか?」
「ああ。」
そういって暫くして出てきたのはほうじ茶であった。
普段は殆ど飲まないのだが、夜遅いということで、
カフェインが少ないものを選んだのだろう。
茶よりも遊戯の優しさが温かい。
「瀬人様も早くおやすみになられた方が・・・」
「ああ。お前も早く寝ることだ。」
「はい。」
それだけ言いつけて、瀬人は先に厨房を出た。
後から、2人きりで話すには中々良い機会だったことに気づいたが、時既に遅かった。
瀬人は再び机に向かい、あと少しで終わるというところだ。
ドアがノックされる。
それが遊戯のものだということはすぐに解ってしまう。
「失礼します。」
「どうかしたのか?」
「お布団も冷たくなってしまったんじゃないかと思って、湯たんぽを・・。」
暗がりでよく見えなかったが、何かを持っている。
「お布団に入れると温かいんですよ。」
そういって、布団の足元のところへもぐりこませた。
「それでは、失礼します。おやすみなさいませ。」
「ああ。」
こちらが礼を言う前に、遊戯は立ち去っていった。
仕事を終えてベッドに潜ると、足元が温かい。
屋敷にこんなものがあったとは、と感心をしつつ、
その温かさに安堵を覚え、遊戯を思いつつ眠りについた。
翌日、瀬人はのそのそと起き上がって、
足元の湯たんぽを探し出した。
「ん?」
カバーは赤と白のタータンチェック。
中身はペット製だ。新しい。
「まさか、これは・・・。」
こんな可愛らしいカバーで、新しいということは、
屋敷のものではなく、
恐らく遊戯のものである。
遊戯が湯たんぽを二つ持っているならまだしも、
1つしかもって良い無かったとしたら・・・?
遊戯の使っている使用人用の部屋は、
自分の部屋以上に暖房設備がなっていない。
風呂上りの後もまだ仕事をしていたのだ、遊戯はどうやって暖まるというのだ。
瀬人は激しく後悔した。
早く寝て欲しいと思いながら、自分が夜中まで起きていたがために、
遊戯は湯たんぽ無くつめたい布団で眠ったのだ!
たとえそれが遊戯が選択したこととはいえ、その選択をさせた自分を瀬人は許せなかった。
そして考えた。
『俺が温めてやろう。』
『せ、瀬人様・・・そんな・・』
なんてことは、現段階では確実に不可能であるのだから、
別の形で遊戯を温めてやれないだろうか。
夜遅くまで仕事をさせないのが一番だが、そういう贔屓は好まないだろう。
ではストーブとかはどうだ?
それは中々良いが、まるで経費で落としたようではないか。
そこで思い出したのは、夜、遊戯が何かを飲んでいたことだ。
体を温めるためといっていたが、
あんな寒い厨房では、部屋に帰るまでに冷めてしまうに違いない。
瀬人は、遊戯が居ない会社で、秘書に買い物を頼んだ。
その夜、遊戯は何時ものように瀬人の布団を整えていた。
「瀬人様、今夜も遅くまでお仕事ですか?」
「いや、大丈夫だ。お前も早く寝るようにしろ。」
「はい。」
「・・・そうだ、昨日は借りがあったな。」
「え?」
瀬人は昼間秘書に買ってきてもらった贈り物を、
内心得意げに、机の裏から持ち出した。
小さな電気ケトル。(箱に入っているが)
「一々厨房に行くのは寒いだろう。部屋で使え。」
「で、でも・・・ボクだけそんな・・・。」
「湯たんぽの礼だ。気にするな。高い物でもない。」
そういって強引に渡すと、遊戯は申し訳無さそうな顔をしつつも、
ふっと笑って顔を赤らめた。
「(なんと可愛らしい・・・)」
「それでは、お言葉に甘えて・・・。」
「ああ。」
遊戯は何度も礼を述べながら、瀬人の部屋での仕事を終えて、
ケトルを両手で大事そうに抱えながら去っていった。
なんだかすごくいいことをした気分で、
瀬人は気持ちよく眠りについた。
心は温かい。
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