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今回は表視点。

*短め

*社長は海馬さんのことではございません!

*この作品に海馬さんは出てきません、たぶん


*海馬分は下のネタで補充してください(笑)






「お疲れ様でしたー!」


元気良く撮影所を飛び出す。
その瞬間は武藤遊戯に戻れる瞬間。

ドキドキしながら私用の携帯電話の電源を入れる。
思わず、あ、と声を上げてしまう。
自分の声に驚き、キョロキョロ周りを見回してから、
メールを開ける。

それが彼女の支えの1つであった。
誰も知らない街へ出かけるのと同じような、
開放された瞬間なのだ。


だが、最近は、

「遊戯ちゃん。」

何時も自分を呼び止めるこの声に、
携帯を鞄から取り出すこともままならなかった。


「お、大滝社長・・・。」
「車で送ろう。」
「・・・あ、ありがとうございます・・・。」
「少し待っていてくれ。」

拒否することの出来ない好意に、遊戯は黙す。
姿を見せた赤いアルファ・ロメオの助手席に乗ると、マンションへ向かって走り出した。

「何時もありがとうございます。」

信号で止まった車の中、何とか沈黙から逃れようと、陳腐な挨拶をした。

「いや、遊戯ちゃんには事務所の社運がかかっているんだ。
街中歩いてて、変な男にでも捕まったらどうなることか。
それに君はもう有名人なんだ、自覚をして欲しい。」
「ボクは有名なんかじゃないです」
「そんなことはない。かなり話題になってるんだ。
君のような子供っぽい人はあまり居ないし、
ツインテールにしたとしても限界があるからねぇ・・・。
売り込まなくても仕事が来るなんて・・・此所何年、まれに見る逸材だね。」
「・・・ありがとうございます・・・。」

喜ぶべきなのだろう。
そうだ、認められているというのは喜ぶに値するはずだ。
中学高校、短大でさえも友人が一人二人しか出来なかった自分が、
“仕事”で認められるなど夢のような話のはずだ。

10分もするとマンションに着いた。
「ここで・・・。」
「ご苦労様。しっかり休みなさい。また連絡する。」
「はい。失礼します。」

車から降りて、一礼する。
再び走り出したそれが左へ曲がりきったのを確認し、玄関ホールへはいっていった。

「確か・・・1204・・・。」

一応郵便受けを確認する。
DMがいくつか入っている。
自分宛ではない。

「はぁ・・・。」

DMは一応鞄にしまい、
気を取り直して1204号室へと向かう。

玄関の前までやってきたはいいが、
ドアノブを触る気力が湧かない。
立ち尽くしていた3分の間、誰も通らなかったのは幸いだった。

いそいそと再びホールへ戻ってきて、
何時ものように管理人の姿を見つけようと、ガラス窓越しに覗き込んだ。
すると向こうも気づいたらしくのそのそとやってくる。
「ああ、遊戯ちゃん。」
背中は曲がり、くたびれた様子の管理人は、まるで孫が遊びに来たかのような反応をする。
「こんにちは。お疲れ様です・・・。あの・・」
「判っているよ。夜は部屋の電気をつけておくから。」
「・・・本当にすみません。」
「いいんだよ。こちとら暇人間だからね。さぁ気をつけてお帰りよ。」
「ありがとうございます。」

深々と頭を下げて、遊戯はマンションの裏口から出て行った。

「・・・ふぅ・・・。」

マンションの近くのスーパーで買い物を終えて、
長い長い家路に着く。
荷物は重たいが、スーパーで目撃されることが重要なのだ。

ダラダラと30分も歩き続けると、
アパートというほうがふさわしいのだろう。
先ほどのマンションとは打って変わった築何十年かと思わん小さなアパートの3階、
306号室こそ、彼女の自宅である。

「ただいまぁ・・・。」

今にも座り込みたい気持ちだったが、
買ってきたものを冷蔵庫にしまう。
それからどさりと、糸の切れた操り人形のように転がった。

「もう限界だよ・・・」

すっかり頭は鈍っていたが、はたと思い出し、
鞄を引っ張り出し、その中のポーチを取り、
そこから携帯電話を取り出す。

まだ綺麗なパールピンクの携帯電話の電源を入れる。
ストラップに付けられたワタポンをにぎにぎしながら画面とにらみ合っていると、
着信が知らされる。
ドキドキするまでも無いのだ。
この携帯電話のアドレスを知っているのは世界で一人だけ。

数ヶ月前に出会った二人の今一番の話題は先週発売されたパックのこと。
金銭的に余裕があるわけではないが、遊戯もマメにチェックしている。
会って話がしたい、というのは何も向こうだけの気持ちではない、
自分も組み終わったばかりのデッキで一戦したいところだ。
だがそれを許さないもう1つの携帯電話。
すぐにメールがやってきた。
明日の予定の確認である。

1つため息をついてから遊戯は時計に目をやる。現在5時。
「まだお仕事中かな・・・。」
手を伸ばしてクマのぬいぐるみを引き寄せ抱きしめた。
それだけで思い出される彼のこと。
「どんな返信しようかな。」

“今度、○日が空いたのですが、会えますか?”
そう、書けるのならどれほど素敵なことか。
きっと向こうも喜んでくれる。

なのに。

最後に会ったのはいつのことか。
「・・・キミが来た日以来、一度も会ってないんだよ。」
腕の中のクマに思わず語りかけてしまう。
そして事実、
アテムと会ったのはたった2回、それも数ヶ月前のことである。

何故人と会うことさえままならないのか。
そう思うたびに、遊戯は立ち上がり、窓の外を見やる。

窓の外は公園がある。
昔、彼女が住んでいた家が建っていた場所。

彼女の祖父はゲーム屋をしていた。
早くに母と父を失った遊戯にとって、祖父だけが家族だった。
そんな祖父と一緒にゲーム屋で働くことが夢だったのだが、
彼女が短大を出て暫くすると、祖父は他界した。

自分が大人になるのを見守ってくれた祖父への感謝の気持ちは今でも彼女の心の中にある。
だが、
彼と過ごした家は失ってしまった。

土地整備のため立ち退きを求められた。

遊戯にはそれに抗う力など無い。
いや、そもそもその計画は違法性はなかった。
何とかどこかに就職して、貯金をして、
もう一度あの店を作ろうと誓ったことで、諦めることが出来た。
彼女はあの家の設計図を大切に保管している。
貯金が出来たら建築士のところへ持っていくつもりだ。

しかし発覚した祖父の借金。

遊戯はそれを返さなければいけない。
借金を残した祖父に対する怒りは無いが、
彼女が返すには時間がかかりそうだ。

何とか引っ越すことも此所に住むことも出来てはいるが、
返せるほどの額はなかった。

「働かなきゃ・・・お店のために・・・。」

遊戯はのそのそと起き上がり夕食の支度を始める。
いつまでもぐずぐずしているわけには行かない。

食事を終えると風呂を沸かして、ゆっくり浸かる。
今の仕事を始めた時は自分の肌に触れることさえ気持ちが悪かったが、
すっかり馴れてしまった。
目的があれば、苦難を乗り越えることが出来る。

体を洗い、さっぱりして風呂から出れば、
彼女がすることは寝るだけである。
布団を敷いて体が冷めないよう潜り込む。

ピンクの携帯のメールの文面と睨み合う。
誤字脱字に気をつけながら返事を書いて、思い切って送信。
名残惜しそうに電源を切り、布団にすっぽりもぐった。


今の仕事に馴れるのに時間がかかった。
馴れてからは順調で、不規則ながらリズムを保っていられたのだ。
それまで彼女の中で割り切れるものがあったのだ。
武藤遊戯というよりも須藤楓という人間として社会に認められているという考えをしていられた。
だからあまり苦しくはなかった。

だが、数ヶ月前に彼と出会ってからというもの、
いや最初はよかったのだが、二回目に彼と会ってから
遊戯は再び不安定な毎日を過ごしていた。
まさか武藤遊戯を認められる事になるなんて思っていなかったのだ。
向こうの事情など知らない。
どんな仕事をしていて、どんな生活をしていて、
どんな人と付き合いがあるのかもわからない。

「・・・素敵な女の人と付き合ってるのかな・・・そうだよね・・・。」

自分のように人との関わりが少ない人間から見れば、
アテムとの出会いは新鮮そのものだが、
社交的な人間にとっては、よくあることなのかもしれない。

客観的に考えて、今の自分の気持ちは
小学校低学年が学校の先生を好きだというのと似ているのだと思う。
優しく接してくれているだけで特別な好意があるように錯覚しているだけ、と。

だがどんなにそうやって自分に言い聞かせても納得しようとしないのだ。
だからこんなに苦しい。

特別になれるわけなんかないのに、特別になろうとしている。
あんなに優しくて見掛けもいいのだから、自分なんかでは釣り合うわけが無いのに。

「ボクはバカだよ・・・ほんとに・・・そんなの夢だよ・・・」


眠った。
夢を見るために。



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次からやっと動き出すはず。



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