「で、何でまたへこんでるのよ。」
「へこんでなど居ない。考えあぐねているだけだ。」
一目惚れしたあの娘から無事メールの返信がやってきて一週間。
残暑が厳しいが、たぶんこの男がへたれているのは夏バテではない。
「仕事はきっちりしてよ?」
「しているだろう?」
「そーだけど・・・なんかね、何時もテキパキしてる同僚が、
机に顎乗っけてダラダラしてるのを見ると不安になるのよ。」
舞の意見はもっともで、
どう見ても失恋したようにしか見えないのだ。
「向こうに彼氏でも居たの?」
「違う!」
椅子からだっと立ち上がり否定するが、
その後またさっと座り、だらける。
「相談に乗るっていってるのよ。大丈夫ならいいけどさ。
大丈夫なら大丈夫でもうちょっと背筋伸ばして欲しいわけ。」
「ああ・・・。」
同僚の心配は理解しているようで、割と素直に口を開いた。
「予定がさっぱり合わないんだ。」
「食事にでも誘うの?」
「あ、ああ、まぁ。だがどうにも向こうは土日が忙しいらしい。」
「サービス業なのかしら。仕事は聞いてないの?」
「ああ。聞くのは失礼な気がして聞いていない。」
一週間、メールを出せば遅れながらも返信は来るらしく、
またアテムもマメに出しているわけではない。
向こうの忙しさを考慮しているらしい。
たぶん、こんなに本気になるのは初めてなのだろう。
そして本当に気に入ってしまったのだと思う。
付き合ってそりが悪いのならば仕方が無いが、
気が合うか合わないかも知らないまま別れるのはあまりにも寂しい。
そんなところだろう。
「何も一日会うわけじゃないんなら、夕食だけでもにすればいいでしょ?」
「そうなんだが・・・
いや、これは俺の被害妄想かもしれないが、
何となく向こうが予定を合わせる気が無いようなんだ。」
早速振られそうなのか。
「脈ナシ?」
「その割りにメールの返信はしっかりくるし、面倒だという意思は感じられない。」
「嫌いじゃないけど、逢いたくもない、ってこと?」
「そういうことはあるのか?」
やっぱり頭に思い浮かんだのは、
向こうに男がいるということだ。
「別にね、あんたの思いを否定するわけじゃないし、
あたしだって応援してる、っていうのを解って聞いて欲しいんだけど、
向こうには男と二人で食事に行くにはまずい状況があるんじゃないの?」
「それはどんな状況なんだ?」
「彼氏が居るとか、家が厳しいとか。」
「・・・はぁ・・・。」
肘をついて頭を抱え込む。
「彼女の家は家族が居ないらしい。一人暮らしだから恐らくそれは無いのだろうが、
遊戯に男・・・。」
居る可能性は十分にあるんだ・・・そう呟く。
「やはり男が居ると他の男と食事へはいけないのか。」
「・・・意地でも行きたいのね。」
「せめてもう一度会いたいんだが・・・。」
どうしても譲れないらしい。
あきれる気は無い、応援したいとは思っている。
「今はちょっと忙しいだけかもよ?
ある程度の覚悟さえしていれば、チャンスは巡って来るんじゃない?
そもそも偶然歩いてて偶然会ったってことは、
生活してる地域が重なってる可能性は十分にあるし、
少女マンガみたいなことをいえば、もし彼女とあんたが出会う運命なら、
また偶然会っちゃったりするんじゃない?まさかとは思うけどね!」
運命なんて言葉は希望の糧にしかならない。
だが、希望を捨ててはおしまいである。
「あわてたって仕方が無いわよ。」
「・・・そうだな。」
アテムは携帯電話の画面を見やりながら、深呼吸を1つして、
立ち上がる。
「気晴らしに仕事でもするか。」
「どっちが気晴らしなんだか・・・。」
体は動かしているに限る。
二人は仕事に出て行った。
アテムは面白いほど真面目な人間である。
休みもしなければ有給休暇をとる気もないらしい。
彼のプライベートが充実しているかしていないかといえば、
割と充実していないことも関係するのだろうが、
仕事にやりがいを感じるのだろう。
能力はあるし、勘も良い。
だがそこまで働き詰めというのは周りの人間にとって不安要素である。
「それじゃあ、お先に。」
「ああ。ゆっくり休めよ。」
それで強引に休ませることにした。
といっても一日丸まるというより、午後だけ休暇を取らせたのだ。
自宅に戻り、
着替え、一杯珈琲を飲み休む。
携帯電話は確認したが欲しいメールは届いていない。
「何処へ行こうか。」
今日は火曜日。
テレビをつけて思い出した。
録画用のDVDがそういえばもう無かった。
数少ない趣味のうちの1つである映画鑑賞、
BSでCMの挟まらないあのチャンネルで放送されるというのだ、
折角だから保存しておこう。
アテムは財布をポケットに突っ込んで家を出ると、
あの日を思わせる日差しに照らされた。
今日は外で食事でもしよう。
少し離れた、
あの人と出会った街へ出向く。
ただこの街には電化製品の店はあまり無く、
雑貨ビルの中に入っている程度だった。
エレベータで3階へ。
扉が開き、ドアを抜けると。
戸惑う大きな帽子を見つけた。
よくわからない。
遊戯は色とりどりの携帯電話の前で困り果てていた。
メールのやり取りが出来ればいいのだが、
何やら色々な機能がついているらしい。
テレビが見られるとか、写真がきれいだとか。
「(写真は欲しいかなぁ・・・。)」
さっきから微妙な距離で立っている店員の視線が気になる。
「(どうしよう・・・。)」
彼女は声をかけるかかけないかでオロオロしている。
声をかけたらかけたで色々教えてくれるのだろうが
教えてくれる話を理解できる気がしないのだ。
そうなると相手の機嫌を損ねる気がしてどうにも聞くことができない。
やっぱりあきらめようかな、と立ち去ろうとした時である。
「遊戯?」
「え?」
帽子の下を覗き込まれて、肩をビクリとさせながらゆっくり見やると、
見た顔がそこにある。
「あ、アテム!」
今にも泣き出しそうな大きな瞳に思わずたじろいだ。
やっぱり運命的だ、と心の中でこぶしを強く握る。
ツバの大きな帽子を被って、
長袖のカーディガンにサルビアブルーの麻のワンピースを着ている。
靴は、見たことのあるものだった。
「アテム、何で此所に・・・。」
「DVDを買いに・・・どうかしたのか?」
「あの、その、携帯電話を買いに来たんだけど・・・よくわからなくて・・・。」
色々と個性を出している携帯電話と対峙していたらしい。
気持ちはわからなくはなかった。
「会社は決まっているのか?」
「う、ううん。」
アテムはその棚にある冊子を一通り抜き取って、座れる場所を探した。
「立っているのは疲れるだろう?」
「でもアテム忙しいでしょ?」
「今日は休みだから。」
忙しくても遊戯を優先したい気持ちで一杯だった。
1つ下の階の喫茶店に入った。
向かい合って座ると、何週間か前に戻った気分になった。
「お久しぶり。」
「ああ。」
「また逢えてうれしい・・・。ごめんなさい、中々予定が合わなくて。」
「いや・・・。忙しいのか?」
「・・・ちょっと不規則なの。それでちょっと・・・。」
「そうか。仕方がない話だ、遊戯が悪いわけじゃない。」
改めて彼女を観察してしまう。
見れば見るほど好みなのだ。
たぶんアニマとかそういうレベルのもので、もうどうしようもない。
あきらめることなど不可能だ。
細く、しかし柔らかそうな肌は男をドキリとさせるに十分である。
幼い顔の割には胸元はかなり豊かだ。
「(男が居てもおかしくないぜ・・・。)」
放っておけるわけがない。
しかしいつまでも一人で考え込んだところでどうしようもない。
折角出会えたのだから話がしたい。
「ああ、そうだ携帯のことか。」
「・・・アテムは詳しい?」
「普通だと思うが・・・替えるのか?」
「えっと、今使ってるのの他にもう1つ欲しくて。」
何やら個人用の携帯が欲しいという。
仕事とプライベートをわけたいなんて、女性にしては珍しいというか、
携帯電話に明るくない彼女がそれでも必要とするには何か理由がある気がしてしまうのは職業病か、
はたまた深く考えすぎなだけか。
「プライベートでもよく使うのか。」
「えっとその・・・お仕事のほうが色々あって・・・別にしたいの。」
男、というより仕事が彼女との食事を妨げているらしい。
「大変そうだな。」
「そ、そうでもないんだけどね。」
申し訳なさそうに笑うのもとても魅力的だった。
アテムは彼女の希望を聞きながら色々と意見を出した。
その結果割とすんなり決まった。
彼女の必要とする機能はもはやデフォルトでついているもので、
不器用さを考慮しボタンの位置などを考えれば、
同じメーカーの機種に収まったのだ。
喫茶店を出て改めて買いに行く。
さっきマジマジと遊戯を見ていた店員が極力此方に目を向けなかったのは、
知り合いらしい男があまりにも無愛想だったからか。
「あとは受け取ればいいだけだぜ。」
「どうもありがとう。」
「お役に立てて幸いだ。」
「アテムはこれからお買い物?」
すっかり忘れていたが、そうだ、DVDだ。
「ボクも一緒に行って良い?」
「ああ。」
「やった!」
少女のように喜んで、アテムの隣に並ぶ。
「あんまり来ないから、よく見たことがなくって。」
確かにパソコンの前を歩けば、見ているだけなのにすぐに接客されて困る。
彼女は特にそうだろう。
たとえ仕事であったとしても声もかけたくなるのも頷ける。
DVDを買ったり、色鮮やかでお洒落なマウスの前で立ち止まったり、
子供のように楽しんでいる姿が眩しい。
契約の完了した携帯電話を受け取った後も、結局そのビルの中にあったゲームセンターに立ち寄り、
久しぶりに来たというわりに、ゲームの腕はかなりよかった。
土産代わりにクマのぬいぐるみを取ってあげると喜んでくれた。
そして
夕食を一緒に食べることに成功した。
「今日はありがとう。」
「いや、会えて良かった。また遊べるといいな。」
「うん!・・・でも今度いつ会えるかわからないの。」
「仕事なら仕方がない。」
「・・・うん。」
前と同じように改札の前で別れを告げる。
「連絡するね。」
「ああ。」
彼女は改札を通って、一度振り向く。
その、別れ際の遊戯は寂しそうな顔をしていた。
根拠はない、
ただの見間違えだと思う。
だがどうしてもその表情が忘れられない。
今日はあんなにも彼女の笑う顔を見たというのに。
階段を上り、その姿が消えるまで見守っていた。
「へこんでなど居ない。考えあぐねているだけだ。」
一目惚れしたあの娘から無事メールの返信がやってきて一週間。
残暑が厳しいが、たぶんこの男がへたれているのは夏バテではない。
「仕事はきっちりしてよ?」
「しているだろう?」
「そーだけど・・・なんかね、何時もテキパキしてる同僚が、
机に顎乗っけてダラダラしてるのを見ると不安になるのよ。」
舞の意見はもっともで、
どう見ても失恋したようにしか見えないのだ。
「向こうに彼氏でも居たの?」
「違う!」
椅子からだっと立ち上がり否定するが、
その後またさっと座り、だらける。
「相談に乗るっていってるのよ。大丈夫ならいいけどさ。
大丈夫なら大丈夫でもうちょっと背筋伸ばして欲しいわけ。」
「ああ・・・。」
同僚の心配は理解しているようで、割と素直に口を開いた。
「予定がさっぱり合わないんだ。」
「食事にでも誘うの?」
「あ、ああ、まぁ。だがどうにも向こうは土日が忙しいらしい。」
「サービス業なのかしら。仕事は聞いてないの?」
「ああ。聞くのは失礼な気がして聞いていない。」
一週間、メールを出せば遅れながらも返信は来るらしく、
またアテムもマメに出しているわけではない。
向こうの忙しさを考慮しているらしい。
たぶん、こんなに本気になるのは初めてなのだろう。
そして本当に気に入ってしまったのだと思う。
付き合ってそりが悪いのならば仕方が無いが、
気が合うか合わないかも知らないまま別れるのはあまりにも寂しい。
そんなところだろう。
「何も一日会うわけじゃないんなら、夕食だけでもにすればいいでしょ?」
「そうなんだが・・・
いや、これは俺の被害妄想かもしれないが、
何となく向こうが予定を合わせる気が無いようなんだ。」
早速振られそうなのか。
「脈ナシ?」
「その割りにメールの返信はしっかりくるし、面倒だという意思は感じられない。」
「嫌いじゃないけど、逢いたくもない、ってこと?」
「そういうことはあるのか?」
やっぱり頭に思い浮かんだのは、
向こうに男がいるということだ。
「別にね、あんたの思いを否定するわけじゃないし、
あたしだって応援してる、っていうのを解って聞いて欲しいんだけど、
向こうには男と二人で食事に行くにはまずい状況があるんじゃないの?」
「それはどんな状況なんだ?」
「彼氏が居るとか、家が厳しいとか。」
「・・・はぁ・・・。」
肘をついて頭を抱え込む。
「彼女の家は家族が居ないらしい。一人暮らしだから恐らくそれは無いのだろうが、
遊戯に男・・・。」
居る可能性は十分にあるんだ・・・そう呟く。
「やはり男が居ると他の男と食事へはいけないのか。」
「・・・意地でも行きたいのね。」
「せめてもう一度会いたいんだが・・・。」
どうしても譲れないらしい。
あきれる気は無い、応援したいとは思っている。
「今はちょっと忙しいだけかもよ?
ある程度の覚悟さえしていれば、チャンスは巡って来るんじゃない?
そもそも偶然歩いてて偶然会ったってことは、
生活してる地域が重なってる可能性は十分にあるし、
少女マンガみたいなことをいえば、もし彼女とあんたが出会う運命なら、
また偶然会っちゃったりするんじゃない?まさかとは思うけどね!」
運命なんて言葉は希望の糧にしかならない。
だが、希望を捨ててはおしまいである。
「あわてたって仕方が無いわよ。」
「・・・そうだな。」
アテムは携帯電話の画面を見やりながら、深呼吸を1つして、
立ち上がる。
「気晴らしに仕事でもするか。」
「どっちが気晴らしなんだか・・・。」
体は動かしているに限る。
二人は仕事に出て行った。
アテムは面白いほど真面目な人間である。
休みもしなければ有給休暇をとる気もないらしい。
彼のプライベートが充実しているかしていないかといえば、
割と充実していないことも関係するのだろうが、
仕事にやりがいを感じるのだろう。
能力はあるし、勘も良い。
だがそこまで働き詰めというのは周りの人間にとって不安要素である。
「それじゃあ、お先に。」
「ああ。ゆっくり休めよ。」
それで強引に休ませることにした。
といっても一日丸まるというより、午後だけ休暇を取らせたのだ。
自宅に戻り、
着替え、一杯珈琲を飲み休む。
携帯電話は確認したが欲しいメールは届いていない。
「何処へ行こうか。」
今日は火曜日。
テレビをつけて思い出した。
録画用のDVDがそういえばもう無かった。
数少ない趣味のうちの1つである映画鑑賞、
BSでCMの挟まらないあのチャンネルで放送されるというのだ、
折角だから保存しておこう。
アテムは財布をポケットに突っ込んで家を出ると、
あの日を思わせる日差しに照らされた。
今日は外で食事でもしよう。
少し離れた、
あの人と出会った街へ出向く。
ただこの街には電化製品の店はあまり無く、
雑貨ビルの中に入っている程度だった。
エレベータで3階へ。
扉が開き、ドアを抜けると。
戸惑う大きな帽子を見つけた。
よくわからない。
遊戯は色とりどりの携帯電話の前で困り果てていた。
メールのやり取りが出来ればいいのだが、
何やら色々な機能がついているらしい。
テレビが見られるとか、写真がきれいだとか。
「(写真は欲しいかなぁ・・・。)」
さっきから微妙な距離で立っている店員の視線が気になる。
「(どうしよう・・・。)」
彼女は声をかけるかかけないかでオロオロしている。
声をかけたらかけたで色々教えてくれるのだろうが
教えてくれる話を理解できる気がしないのだ。
そうなると相手の機嫌を損ねる気がしてどうにも聞くことができない。
やっぱりあきらめようかな、と立ち去ろうとした時である。
「遊戯?」
「え?」
帽子の下を覗き込まれて、肩をビクリとさせながらゆっくり見やると、
見た顔がそこにある。
「あ、アテム!」
今にも泣き出しそうな大きな瞳に思わずたじろいだ。
やっぱり運命的だ、と心の中でこぶしを強く握る。
ツバの大きな帽子を被って、
長袖のカーディガンにサルビアブルーの麻のワンピースを着ている。
靴は、見たことのあるものだった。
「アテム、何で此所に・・・。」
「DVDを買いに・・・どうかしたのか?」
「あの、その、携帯電話を買いに来たんだけど・・・よくわからなくて・・・。」
色々と個性を出している携帯電話と対峙していたらしい。
気持ちはわからなくはなかった。
「会社は決まっているのか?」
「う、ううん。」
アテムはその棚にある冊子を一通り抜き取って、座れる場所を探した。
「立っているのは疲れるだろう?」
「でもアテム忙しいでしょ?」
「今日は休みだから。」
忙しくても遊戯を優先したい気持ちで一杯だった。
1つ下の階の喫茶店に入った。
向かい合って座ると、何週間か前に戻った気分になった。
「お久しぶり。」
「ああ。」
「また逢えてうれしい・・・。ごめんなさい、中々予定が合わなくて。」
「いや・・・。忙しいのか?」
「・・・ちょっと不規則なの。それでちょっと・・・。」
「そうか。仕方がない話だ、遊戯が悪いわけじゃない。」
改めて彼女を観察してしまう。
見れば見るほど好みなのだ。
たぶんアニマとかそういうレベルのもので、もうどうしようもない。
あきらめることなど不可能だ。
細く、しかし柔らかそうな肌は男をドキリとさせるに十分である。
幼い顔の割には胸元はかなり豊かだ。
「(男が居てもおかしくないぜ・・・。)」
放っておけるわけがない。
しかしいつまでも一人で考え込んだところでどうしようもない。
折角出会えたのだから話がしたい。
「ああ、そうだ携帯のことか。」
「・・・アテムは詳しい?」
「普通だと思うが・・・替えるのか?」
「えっと、今使ってるのの他にもう1つ欲しくて。」
何やら個人用の携帯が欲しいという。
仕事とプライベートをわけたいなんて、女性にしては珍しいというか、
携帯電話に明るくない彼女がそれでも必要とするには何か理由がある気がしてしまうのは職業病か、
はたまた深く考えすぎなだけか。
「プライベートでもよく使うのか。」
「えっとその・・・お仕事のほうが色々あって・・・別にしたいの。」
男、というより仕事が彼女との食事を妨げているらしい。
「大変そうだな。」
「そ、そうでもないんだけどね。」
申し訳なさそうに笑うのもとても魅力的だった。
アテムは彼女の希望を聞きながら色々と意見を出した。
その結果割とすんなり決まった。
彼女の必要とする機能はもはやデフォルトでついているもので、
不器用さを考慮しボタンの位置などを考えれば、
同じメーカーの機種に収まったのだ。
喫茶店を出て改めて買いに行く。
さっきマジマジと遊戯を見ていた店員が極力此方に目を向けなかったのは、
知り合いらしい男があまりにも無愛想だったからか。
「あとは受け取ればいいだけだぜ。」
「どうもありがとう。」
「お役に立てて幸いだ。」
「アテムはこれからお買い物?」
すっかり忘れていたが、そうだ、DVDだ。
「ボクも一緒に行って良い?」
「ああ。」
「やった!」
少女のように喜んで、アテムの隣に並ぶ。
「あんまり来ないから、よく見たことがなくって。」
確かにパソコンの前を歩けば、見ているだけなのにすぐに接客されて困る。
彼女は特にそうだろう。
たとえ仕事であったとしても声もかけたくなるのも頷ける。
DVDを買ったり、色鮮やかでお洒落なマウスの前で立ち止まったり、
子供のように楽しんでいる姿が眩しい。
契約の完了した携帯電話を受け取った後も、結局そのビルの中にあったゲームセンターに立ち寄り、
久しぶりに来たというわりに、ゲームの腕はかなりよかった。
土産代わりにクマのぬいぐるみを取ってあげると喜んでくれた。
そして
夕食を一緒に食べることに成功した。
「今日はありがとう。」
「いや、会えて良かった。また遊べるといいな。」
「うん!・・・でも今度いつ会えるかわからないの。」
「仕事なら仕方がない。」
「・・・うん。」
前と同じように改札の前で別れを告げる。
「連絡するね。」
「ああ。」
彼女は改札を通って、一度振り向く。
その、別れ際の遊戯は寂しそうな顔をしていた。
根拠はない、
ただの見間違えだと思う。
だがどうしてもその表情が忘れられない。
今日はあんなにも彼女の笑う顔を見たというのに。
階段を上り、その姿が消えるまで見守っていた。
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